費用・発注ガイド
制作会社・デザイン会社が"公開で止まる"理由と実装パートナーの使い方
制作会社やデザイン会社が公開で止まりやすい理由と、実装パートナーをうまく使う方法を整理します。役割分担と連携のコツを解説。
デザインはきれいに仕上がった。UIも完成している。なのに、いつになっても公開されない。こういう状況は、制作会社やデザイン会社に発注したプロジェクトで起きやすい。
原因は制作会社の「できる範囲」と、発注者の「できると思っていた範囲」のズレだ。これは誰が悪いという話ではなく、構造的に起きやすい問題だ。
なぜデザイン会社は「公開」で止まるのか
デザイン会社・Web制作会社の強みはUI/UXの設計と、見た目の実装にある。Figmaでのデザイン、HTML/CSS、フロントエンドのコーディングまでは高品質でこなせる。
問題は「公開する」に必要な要素がそこで終わらないことだ。
本番公開には以下が必要になる。
- 認証機能(誰がログインできるか)
- バックエンドのロジック(データの保存・処理)
- データベースの設計と接続
- 本番サーバーの構築とデプロイ
- 環境変数の管理
- セキュリティ設定
- エラー監視の仕組み
これらは「開発エンジニア」の領域であり、UI専門の制作会社がカバーしていないことが多い。会社によっては「フルスタックで対応できます」と言うが、実際には外部のエンジニアに再委託していたり、対応できるエンジニアが1人しかいなかったりする。
止まる3つの典型シナリオ
シナリオ1:制作会社に頼んだら、デザインだけ上がってきた
「Webサービスを作りたい」という依頼を制作会社にしたが、納品物がFigmaファイルと静的なHTMLだった。データの保存や認証は「実装は別途ご相談」になる。
このケースは契約時の認識齟齬が原因だ。発注者は「動くサービス」を期待し、制作会社は「デザインと静的ページ」を成果物として理解していた。
シナリオ2:フロントエンドはできたが、バックエンドが空
フロントエンドは動いているように見えるが、データが実際には保存されておらず、ログインも本物ではない。ボタンを押せばページ遷移するが、そのデータは架空のものだ。
「デモとして動く」状態と「本番として動く」状態の差がここにある。バックエンドのAPI、DB接続、認証のすべてを別途実装する必要がある。
シナリオ3:動いているが、本番環境がない
ローカル環境またはデモ環境では動くが、本番公開のためのサーバー設定が終わっていない。ドメイン取得、SSL証明書の設定、環境変数の本番用設定、デプロイパイプラインの構築、どれかが抜けていて「あとちょっと」が続いている。
実装パートナーの役割
実装パートナーとは、制作会社が作ったデザインやフロントエンドを受け取り、本番公開できる状態まで仕上げるエンジニアリングのパートナーだ。
具体的にカバーする範囲は以下になる。
- 認証・権限の実装: ClerkやSupabaseを使ったログイン・サインアップ・権限管理
- バックエンドAPI: Next.jsのServer Actions・API Routes、データの処理ロジック
- データベース: Supabaseのテーブル設計、RLS設定、CRUD実装
- 本番デプロイ: Vercelへの本番デプロイ、環境変数の設定、ドメイン接続
- セキュリティ: SQLインジェクション対策、CSRF対策、セキュリティヘッダーの設定
- 監視・運用: Sentryのエラー監視、ログ設計、バックアップ設定
制作会社が「最初の70%」を担い、実装パートナーが「残りの30%」を埋める。この分業が機能すると、プロジェクトが公開まで一気に進む。
本番公開の「最後の30%」についてはこちらの記事で詳しく解説している。
ハンドオフの実際の流れ
制作会社から実装パートナーへの引き渡し(ハンドオフ)は、以下の流れが機能しやすい。
Step 1:制作会社が渡すもの
- Figmaファイル(全画面・全状態のデザイン)
- フロントエンドのコード(GitHubリポジトリ)
- 画面一覧と画面の説明
- 権限・ロールの定義(管理者・一般ユーザーなど)
Step 2:実装パートナーが受け取ってやること
- コードの現状確認と技術的負債の洗い出し
- バックエンドアーキテクチャの設計
- DBスキーマの設計・実装
- 認証・権限の実装
- フロントエンドとバックエンドの接続
Step 3:本番公開前の確認
- 本番環境でのテスト
- セキュリティチェック
- パフォーマンス確認
- 引き継ぎドキュメントの作成
この流れをスムーズにするためには、Step 1の「制作会社が渡すもの」が揃っているかどうかが鍵になる。特に「権限・ロールの定義」は事前に決まっていないと、バックエンド実装のスコープが大きくブレる。
2社に発注するブリーフの書き方
制作会社と実装パートナーに別々に発注する場合、「それぞれの担当範囲」を明確に書かなければ、どちらも「相手がやると思っていた」という状態になる。
ブリーフに必ず含めるべき項目:
- 制作会社の担当範囲: デザイン(Figma)、フロントエンドコーディング(静的または最低限の動作)
- 実装パートナーの担当範囲: 認証、DB、バックエンドAPI、本番デプロイ、監視
- 引き渡し基準: 「制作会社からのFigmaとフロントコードが揃った段階で実装パートナーが着手する」
- 共有リポジトリ: 両者がアクセスできるGitHubリポジトリを最初から用意する
- コミュニケーション手段: Slack・Notion等でのやり取りルールを決める
コストの実際の割り振り
デザインと実装の費用配分は、プロジェクトの複雑さによるが、一般的な目安は以下の通りだ。
| フェーズ | 担当 | コスト比率 |
|---|---|---|
| UI/UXデザイン(Figma) | 制作会社 | 20〜30% |
| フロントエンド実装 | 制作会社または実装パートナー | 20〜30% |
| バックエンド・DB・認証 | 実装パートナー | 30〜40% |
| デプロイ・本番設定・監視 | 実装パートナー | 10〜20% |
つまり、実装パートナーの担当は全体の50〜60%になることが多い。「デザインを頼んだら完成すると思っていた」という認識だと、予算の後半で大きな追加費用が発生する。
デザイン会社が「フルスタック対応できる」と言うときのレッドフラグ
以下のような状況は、依存するリスクがある。
- フルスタック担当が1名しかいない(その人が抜けるとプロジェクトが止まる)
- バックエンドの事例や実績が見せてもらえない
- セキュリティやDB設計の話を持ち出すと「問題ありません」しか言わない
- 本番運用後のサポート体制が不明確
見た目のポートフォリオだけでなく、「本番で動いているサービスの実績」を確認することが重要だ。見積もりをブレさせないための事前整理についてはこちらも参照。